hiroxxxの激ヤバブログ

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hiroxxxの怪談「海月」

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夏になるといつも思い出す話。

先日地元に帰ったら、子供の頃よく遊んでた浜辺が埋め立て工事されてほとんど無くなっちゃっててですね。
なんだか悲しいっていうか、時が経つのを感じちゃいまして。
今でもあれ何だったんだろう?って話なんですが。

これは僕がまだ小さい頃の話なんです。
小学校低学年だった頃かな。

僕の住んでいた町は海に面してまして、漁業が盛んな町だったんですよ。
まだ陽も昇らない早い時間から、近所の漁師さん達は船を出して、せっせと魚を捕りに出掛けていましたね。

そんな浜っ子育ちの僕達ですから、夏休みにもなると、もっぱら海で遊んでたんですよ。

その日は、学校の友達と浜辺で遊んでて、ふらっと現れた上級生達も合流しちゃって、いつの間にか一緒になって遊ぶ様になっちゃったんです。

魚を積む為に置いてある発泡スチロールを、こっそり盗んで海に浮かべて、それに乗り込み、バランスを崩してすぐ転覆したりして遊んでたんですね。

そうこうしてる内に、物足りなくなったのか上級生が「俺の家のゴムボートを出すからそれに乗ろう」と言いだしたんです。

当時、僕の周りにゴムボート持ってる人なんか居なくてですね、ちゃんと海に浮かぶゴムボートに乗れると考えただけで、胸が高鳴っちゃって。

何分か経って、先輩がしわくちゃに畳まれたゴムボートと、何と言うんですかね...足で踏んで空気を入れるやつ?を持ってきたんですよね。

それで空気を入れて、いざ海に浮かべてみました。

その場に集まっていた4~5人で協議した結果、このゴムボートに5人乗るのは厳しいから4人で行こうと言う事になりましてね。
そこで「じゃあどこ行く?」という話になり、地元の浜辺からそう遠くないところに浮かぶ、無人島に行くことになったんです。

無人島と言っても小さな島でして、潮が引いた時なんかは陸地と繋がったりもする、そう遠くはない場所に浮かぶ島でした。
僕達の間では絵本に出てくる鬼が島の形によく似ていたことから、その島を鬼が島と呼んでいました。

僕はいつも鬼が島にある赤い鳥居に興味津々だったんですよ。
あそこは一体何だろう?って感じでね。
普段暮らす町に、ぽつんと浮かぶ行きたくてもなかなか行けないミステリースポットだったんですね。
でも今日なら行ける、そう考えるとわくわくしました。

するとゴムボートに乗り込んでいた内の一人が、「鬼が島に行くなら僕いかない」とボートを降りちゃった。
どうしたの?って聞くと、その子、鬼が島が正面に見える場所に住んでるんだけど、夜に鬼が島を眺めていると月明かりに照らされた海面に、たくさんのクラゲが浮くんですって。
あれに刺されたらたまったもんじゃないと言います。
それにあの島からは、深夜に動物の鳴き声が聞えてくると言うんです。
どんな声かと聞くと「ひゅっ、ひゅっ、」と鳴くんだそうです。

それはきっと鳥だろう?と上級生が言い出し、結局行かないと言い出した一人を浜辺に見張りとして残し、残りの4人で出発する事になったんです。

この島は本来、誰かの所有する島で立ち入り禁止なのでしょうが、小学生の頃の私達はそんな事お構いなしに、ゴムボートを漕ぎ出しました。

出発したのは夕方でしたが、まだ昼間みたいに明るかったし、海岸には犬の散歩をしてる人なんかも確認できたんで恐怖心とかはなかったです。

オールで漕いではいるんですが、進んでいるのかどうなのかいまいちわかりません。
「これじゃ鬼が島に着かない」と先輩が言い出し、僕ともうひとりがゴムボートから降りて、泳いでボートを後ろから押す形になったんです。

徐々にでしたが、確実に鬼が島に近づいているのがわかりました。
と、その時、僕の両足が何かに絡まり、ぐうーっと海中に引きずりこまれました。

突然海面から消えた僕をとっさの行動で助けてくれたのは、上級生達でした。
両足に絡まっていたのは大量の海藻でした。
それがなんか大量の髪の毛に見えちゃってですね、怖くなっちゃったんです。
そんな気分だから、海藻を解いた後の両足に、何か手で強く握られた様な跡が残ってる様に見えちゃって。

ボートに乗せてくれた上級生もきょろきょろと僕の足に付いた跡を無言でみるんですよ。

そうこうしてると、やっと鬼が島に着いたんです。

小さいとばかり思っていた島ですが、上陸してみると大きさもそこそこあり、僕達は島をぐるっと一周してみることにしました。
島の入口らしき浜辺に例の赤い鳥居がありました。近くでみるとかなり傷んでいます。
島の頂上付近にも木々の間から赤い鳥居が見え隠れする事に気が付きました。
頂上に行ってみようということになり、一周した時に、ここからしか登れないねと発見した鳥居から続く道とも言えない様な道を登ることにしました。
ほとんど獣道のような感じで、不規則に並ぶ石段を追いながら、ごつごつした斜面を登ります。

頂上に着くと、そこにあったのは小さな神社?の様な建物でした。
それが神社だったのかどうかはわからないのですが、その建物の入口にも鳥居が立っていたので、これは神社だろうという事にしました。

頂上から僕達の住む町を見渡せたら良かったのですが、頂上自体が周辺の木々に囲まれていて影になってます。
これはどおりで頂上に神社があることを誰も知らない訳です。

そうこう話していると、遠くから何かキィー...キィー...と聞えてきたんです。

その音は、だんだんと大きくなってきます。

キィー.. キィー..キィー..


車椅子の音だ。
この音は車椅子を押してる音だと思ったんです。

その音が徐々にこちらに近づいてくるんですよ。

「見つかると怒られる!」と思った僕達は、即座に神社の階段下のスペースに隠れました。

キィー..キィー..キィー..

その音はだんだん近づいてきますが、姿は一向に見えてきません。
それでも僕らは隠れ続けました。

他にもこの島に人がいたのかな?
そう思いました。


音は、だんだんと近くなり、

今度は僕達の真上から聞えてきました。
ごろごろごろと神社の渡り廊下のような所を車椅子がゆっくりと、まるで僕達を探しているかのように動いてるんですよ。

とにかく息を潜めて待ちました。
今にも駆け出して逃げ出したい気持ちを抑えながら。

キキィー..(ひゅっ)

!?

なんだ今の音は?

突然何かの泣き声がこだましたんです。

その場に隠れたみんなで顔を見合わせました。
その音は一度きりでしたが、浜辺に置いてきた友人の言葉を思い浮かべました。

車椅子らしき音は諦めたのか徐々に遠ざかり、僕達はタイミングを見計らって階段下から抜け出し、一気に頂上から浜辺へ駆け下りました。

しかし、駆け下りていると同時に、一体この獣道をどうやって車椅子が上がってこれるのだろうか?と不思議でなりませんでした。
他に道があったのだろうか?


島を駆け下りると、上級生が先程の音の正体を突き止めようと言いだしました。
僕は乗り気じゃなかったのですが、上級生達は盛り上がっていて、結局その場の全員で島をまた一周する事になりました。

しかし、どこを探しても音の出処らしきものは見つかりません。それどころか、やはり島を登っていける様な道がないのです。

これは不思議だなーと思っていると、上級生が何かを見つけました。

海岸の砂浜から半分尖った角が突き出てました。
それはどうやら箱の様でした。
木箱が砂浜に埋もれているのです。

それをみんなで協力して掘り出しました。
海水で洗うと、木箱の全体が見えてきました。
元々赤い色だったのがわかる淡いピンクの木箱でした。
周りには和風な柄が施されていて、振ると中からカラカラカラッと音がします。
小さい何かが入ってる様ですが、箱自体に開封口がなく開きません。

これどうやってあけるんだ?
と試行錯誤しますが、どうしようもありませんでした。

太陽も沈んできた事だし、とりあえず持ち帰って叩き付けて開けようという事になり、向こう岸に戻る事になりました。

上級生達がゴムボートを海に浮かべ、みんなで乗り込みます。

そして島を出て向こう岸へと向かう途中、今度はボートを押していた上級生が「わっ!」と言うんです。

どうしたの?と聞くと、足を誰かに掴まれたと。
ああ、それはさっきみたいな海藻だよと言うと、上級生は水中メガネを付けたまま海を覗き込みました。
次の瞬間「わあーーー!」と喚きながら、はやくはやく!とボートを急がせます。

ただ事じゃないと思った僕達は、とにかくボートを急いで漕ぎました。

その間も上級生は喚きながらこんな言うんです。
「下から変なのがどんどんくる!追いかけてくる!」って。

そんな事言われたらこっちもパニックになりますよ。
足を一生懸命ばたつかせて対岸を目指します。

すると (ひゅッ!) と音がする。

ボート上のひとりがキョロキョロしながらオールを動かす腕を止めてます。

音がする方に目をやると辺り一面にぷかぷかと何かが浮いている事に気づいたんですね。

それはクラゲでした。
大量のクラゲに囲まれてるんですよ、ボートが。

そのクラゲが、ひゅっ!と鳴くんです。
一匹が鳴くと辺りにいるクラゲも一斉にひゅっ!ひゅっ!ひゅひゅひゅ!
と鳴き出して。

クラゲの鳴き声なんて聞いた事ないですし、鳴くものなのかも知らないですけど、そう聞こえるんですね。

なんか怒ってるなって感じたんですよ。
刺されるのは怖いですけど、みんな必死で漕ぎ出した。
半狂乱っていうんですかね。凄い形相でしたよ。

クラゲをかき分けて、やっと浜辺にたどり着いたんですがね、みんなおかしな事を言うんですよ。

僕が「クラゲすごかったね!」て言うと、クラゲ?みたいな顔をする。
さっきクラゲにボート囲まれたじゃん!て言うと、こう言うんですよ。
「お前、あれがクラゲに見えたのか」って。

どうやら、僕以外の全員には、それは違うものに見えてたそうで、みんなが口を揃えてこう言うんですよ。

波と波の間、海面にゆらゆら浮かぶ乱れた髪の女が見え隠れし、それは、顔半分だけ海面に突き出し、ひゅッ、ひゅッと鳴きながら迫ってきたそうです。

半狂乱になりながら、そう言い切るみんなを見てると、信じざる得なくなってきまして。

その時、島で拾った木箱が無い事に気づいたんです。
さっきので、海に落としちゃったのかなって海見たんです。

ありましたよ、海面にぷかぷか浮かぶ木箱が。
でもね、潮の流れお構いなしに鬼が島のほうに戻っていくんですよ。
あれはまるで島に引っ張られてるみたいでしたね。

木箱が離れてどんどんちいさくなっていくんです。
もう見えなくなるな~って時に、木箱が波でチャポンッて浮いたんですよ。
するとガシッと白い手が木箱掴んで、海面に消えたんです。

あれなんだったんだろう、って今でも思い出しますね。